長い廊下につんざくように響き渡る靴音。
大理石が余すところなく敷き詰められた床。
両脇には埃を被り、錆びついた甲冑が等間隔に並んでいて
不気味に見下ろしている気配さえする。

ジズとリデルは、長い廊下を足取りも重く歩き続けていた。

歩き続けていると、闇の向こう側にぼんやりと鈍く輝くものが見えた。

どうやら、それはくすんだ金で装飾された
大きな両開きの扉らしい。

扉にたどり着くと
リデルは、扉を大きく三回ノックした。

「入れ」

中から、若く威厳のある声が響いた。




【或る人形師の輪舞曲Z】




「失礼します」
リデルは扉を開き、深くお辞儀をすると、一歩踏み込んだ。
ジズも後に続く。

部屋の中は、金や絵画の美しい装飾と
魔法陣などの描かれた羊皮紙、怪しい臓物のようなものが入った瓶でごった返していた。

その中に緋色の髪をした男が、大きな大理石の机の上に
羊皮紙を広げて何か新たに書き込んでいる。

「リデル、ご苦労だった」

男は顔を上げながら言う。

「ジズ…久しぶりだな」
男はペンを置き椅子から立ち上がるとジズに歩み寄り、
対してジズはその男に微笑んだ。

「お久しぶりです、かにパン紳士。」
リデルが苦しそうに吹き出した。
「かにパンではない!ヴィルヘルムだ!!」
男はすぐに子供のように怒鳴った。
リデルはまだ苦しんでいる。

「では、今回私が連れ戻された件ですが…カニヘルム殿」
とうとうリデルが悶え始めた。
「カニヘルムではない!!
ヴィルヘルムだ!!」
ヴィルヘルムは拳を振り上げて喚くが、
ジズとリデルはくすくすと笑い続けている。

ヴィルヘルムは取り乱した自分に気づくと、
暴れるのをやめ、ふうとため息をついた。

「今回お前を連れ戻したのは、他でもない。」
ジズは微笑み続けている。
「貴様は少し表の奴らに近づきすぎた。
それだけの事だ。」

ジズは少し目を伏せたがもう一度ヴィルヘルムを見るとまた微笑んだ。
「表の世界の住人との接触は、
禁忌には入っていなかっと思われますが?」
「接触はな。
まあ、座れ。」
ヴィルヘルムが指を鳴らすと、埃を被った2脚のソファがぼふっと音を立てて床に置かれた。

「リデル、お前は部屋に戻っていいぞ」
ヴィルヘルムは腰を下ろすと立ったままのリデルに言った。
「はい、カニヘ…ヴィルヘルム。」
「貴様…今、カニヘルムと言おうとしただろう」
リデルは逃げるように部屋を出て行き、
扉が閉まるのを確認するとヴィルヘルムはジズと向き直った。


「さて、話の続きだが…
…貴様、表の世界の者と接触しているようだな。」

ジズは微笑みを絶やさず返す。
「えぇ…しかし、それは禁忌では無いと存じ上げますが…」
「それだけでは無い」

ジズは再び言葉を遮ったヴィルヘルムの顔を見る。
ヴィルヘルムは心なしか得意気で、目を細めてジズを見た。

「…ある人間に、特別な感情を抱いているそうじゃないか。」
ジズは
一瞬動きを止めると、不自然に視線を逸らした。

ざらついた数秒間の沈黙の後、ヴィルヘルムは呆れたようにため息をついた。

「まあ、いい。今日は貴様も、もううんざりだろう?
休め。貴様の部屋は先ほど綺麗に掃除させておいた。」

立ち上がり、扉の方へ歩いていくヴィルヘルムを
ジズは横目で見送った。

すると扉に手をかけたヴィルヘルムが
顔を動かさずに、低く呟いた。

「―狂気の幽霊紳士も、堕ちたものだな―」

ジズの肩がぴくりと反応する。
ヴィルヘルムはそのまま扉を開き、マントを翻して暗い廊下の向こうへ歩を進めた。

あとには、なんとも言えない感じの悪い空気に、
冷たい風が吹きすぎるだけであった。

「―フフフ…」

ジズはすらりと立ち上がる。

「狂気の幽霊紳士…ですか…」
悲哀に満ちた左目で、暗がりの向こうのヴィルヘルムの背中を見送る。

「遠い昔のことですよ…ヴィルヘルム」

少し早い足音は館の中に溶け入っていった。




冴え冴えとした碧い月の光が窓枠から差し込み、
静かに寝息をたてているアンネースの白い肌を照らす。
刹那、光を何かが遮ったかと思うと突如窓が開け放たれ、黒い影が彼女の笑顔を覆った。

影の主はしなやかに窓枠から降り立ち、アンネースに忍び寄っていく。

が

「アンネースから離れろー!!」
影の主が声のした方に振り向くと、モップが独りでに立ち上がり
勢いよく突っ込んできたかと思うと、
モップの柄の先が見事にみぞおちにクリーンヒットした。

「ぐぼあっ?!」

影の主は後方に2、3回転すると、激しい音を立てて壁に勢いよくぶつかり、
うつ伏せになってその場にのびた。

その音でアンネースは飛び起き、周りを見回したが大体の事態は飲み込んだようだった。

「アンネース、大丈夫?!」
モップかと思っていたのは、明らかにモップに身長負けしたペペであった。

「え…えぇ…」
アンネースはガウンを羽織ると、
自分の部屋の壁でのびている謎の人物におそるおそる近づいた。

「まさか本当に来るとは…」

アンネースがそう呟くと、床にのびた人物の指がわずかに動き
警戒したペペとアンネースは身構えたが、

顔を上げたその人物の第一声は

「何するんだ!!このふつくしいユーリ様の顔に
傷でも付いたらどうするんだ!!」


2人はその突拍子もない発言に、顔を見合わせて凍りついた。
「な…なんだ…?この人…」
ペペの顔には苦々しい表情が浮かんでいた。




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できたと思う。
なんかさ、話の進展なさすぎて笑っちゃうよ。

初期の頃と比べて文体がだいぶ変わって来ちゃった感じがする。
しかもヴィルとユーリがどっちともバカだ。
どうしよう。

そして果てしなく文がうざいよ。いくらか直してみたけど治らない。
たすけてーたすけてー。

次回はちゃんとシャルロット出てくると思う。
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