誰もいないがらんとした教会。
その中にぽつりぽつりと二つの影。

「    ねぇ、アンネース」
先程とはうってかわって穏やかな表情のアンネースは
すっと聖書から顔を上げた。
「なんですか?ペペ」

身の丈の二倍程もあるモップを持ったペペは申し訳なさそうにアンネースを上目遣いで見た。
「アンネースは、どうしてジズがいるときは怖いの?」

アンネースの表情が曇るのを見て
ペペはばつの悪そうな顔をした。
アンネースはペペを軽く睨みつけひるませると、ひと息ついてペペの目を見つめた。

「あの方は−
死者を愚弄している気がしてならないのです。」




【或る人形師の輪舞曲W】


「一曲お手合わせ願えますか、
マドモアゼル」

戸惑いキョトンとするシャルロット。
微笑みをたたえたまま手を差しのべるジズ。

突然の出来事に驚きつつも
おどおどと伸ばされた小さな手のひらは
大きな手のひらと重なった。

その瞬間シャルロットの体が羽のように軽やかに舞い上がり
立ち上がったジズと等しい目線になる。

突然の出来事で唖然としているシャルロットをよそに
ジズは部屋の隅に呼びかける。
「一曲頼みますよ」

部屋の隅にあって埃まみれになって気づかなかった。
ピアノだ。ピアノが軋む音を出して勝手に開いた。
「はい、承知しました。ジズ」

空間に謎の声が響く。

「(クフキヨメヨ)」
「(わかっておるわい)」

ピアノから煌めく音の粒がこぼれ始めた。
部屋の中に午後の柔らかい陽が差し込み
2人の繋がった手のひらを暖める。

廻る廻る
廻り始める

漆黒のヴィロードとルビーのシルクが螺旋を描く。

静かな午後がゆっくりと融け始める。


戸惑い、目を逸らしていたシャルロットは流れる音楽に耳を澄ます。

輪舞曲…

「好きでしょう?」
突然聞こえた静かな声に振り返ると、ジズはシャルロットに微笑みかけている。
「貴女にピッタリの曲を選んでみたのですが」
シャルロットは目をつむり、改めて耳を傾けた。
自然と穏やかな気持ちになってくる。
胸の内から昏々とわき出る清水を連想させるその曲に
シャルロットは自然に笑みをこぼした。

「さぁ、踊り続けましょう」

2人のロンドは軽やかに続く。

午後のひと時は弾む音楽の雫に包まれた2人を暖かく迎える。

くるくる廻れ廻れ

シャルロットは前を見つめる
ジズも前を見つめる

互いを見つめ合う2人の間には
確かに心からの「楽」と言う感情が芽生えていた。


シャルロットは溢れる笑顔の最中口を開く

「……っ…ズ……じず」

微かに響いた小さな小さな声はしっかりとジズの視線と聴覚が捉えた。

「わタし…スごく楽シい…!
楽しい…の…!」

心から微笑んでいる彼女の瞳からは
透き通った「人間の涙」が溢れ出ていた。

「ジズ…私…」
「可愛らしい声ではないですか」

シャルロットはふっと息を飲み、頬が薔薇のように赤く染まると
小さく照れ笑いをした。

「私、ジズとお話したかった。したかったの」
「ええ、いつまでも聞いてあげますよ。」


廻る廻る。サファイアは漆黒を、漆黒はサファイアを映し出す。

やがてルビーは陽に照らされた床にふわりと舞い降りる。

そして紅く染まった頬をぺちぺちと叩くと目を泳がせた。

「どうしましたか?」
いきなり覗きこんできた漆黒の瞳にしどろもどろになるシャルロットは慌てて目を逸らした。
「な、なんでもないの」
シャルロットはふるふると首を振った。
そして胸を小さな両手で押さえて息をつくと
床を見つめたままつぶやく。

「ありがとう…」
小さな鈴のような声が響き、届く。
「おやすい御用ですよ、シャルロット。
貴女の喜ぶ顔が見られたことが、私には喜びです」

シャルロットはどぎまぎしながらもまた小さく微笑んだ。




「アンネース、見てみて!!
おそらが晴れたよ!」

開け放たれた教会の扉から飛び出してきたペペが
振り返り様に声を上げた。

「そうですね…」

澄み渡った、青空の下暖かく照らす陽光に手をかざす。
自然と頬の筋肉が緩む。

アンネースは目を細め、はしゃぐペペの様子を眺めた。


すると、


「あのぅ、すこしよろしいですかぁ??」


アンネースは、はい?とかえし振り返ると表情が凍りつき、
次の瞬間


ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!!


「アンネース?!どうしたの?!
って
うっきゃあああああああああああああああああああああ!!!!!
おばけぇぇぇええええええええええええええ!!!!!!!!!!」


屋根にとまっていた鳩が一斉に飛び立った。

2人が抱き合って震えている前にはゴスロリ姿の少女が一人。
しかし、その姿はこの世のものでは無かった。

「なによ、おばけだなんて失礼ねっ
私はおばけじゃなくてゾンビよ、ゾ・ン・ビ。」


がたがたがた
ぶるぶるぶる
二人は震え続けている


「あのね、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
少女は一歩アンネース達に近づいた。

「ひっ」

2人は後ずさりした。
少女はふぅとため息をついた。

「私はリデル。
ちょっと人探ししてるの。
お時間いいかしら?」

ペペは両目を押さえながらいまだにがたがた震えていた。
アンネースはその様子を見た後、恐る恐る聞き返した。
「ひ、人探し…ですか?」

少女はうなずき、微笑んだ…ように見えた。

「えぇ。
ジズっていう人形師を語った胡散臭い紳士なんだけど。」

ペペとアンネースは顔を見合わせて、もう一度リデルを見た。

リデルは相変わらずにっこりと2人を見つめたまま首を傾げた。

「知ってるよね?」





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こっ恥ずかしくなる内容でスマソ。
しかしまぁ、シャルロットが喋った、喋ったよ!!
やっとここまで来たか。

次回からまた、続きます。
このカップリングどうしてくれよう。

そしてリデルさんなにしに来たんですか。
アンネースさんをこんな情けなくして何がしたいんだ。

すべての突っ込みは私がされるべきです。

じゃあ死んできます。
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